春
てふてふひらひらいらかをこえた
種田山頭火
人をみな消してしまった蝶の昼
鈴木みのり
緊張の糸が解れて蝶の昼
つじあきこ
シジミチョウ
春愁や焼きたてパンに沈む指
木村輝子
春愁や花びらにある裏おもて
しのざき杳
地形図の谷折にある春愁
波戸辺のばら
馬酔木の花
夏
おそるべき君等の乳房夏来る
西東三鬼
うすつぺらな異国の銀貨夏に入る
種田果歩
若宮に太鼓が響き夏に入る
たかはしすなお
蝸牛やごはん残さず人殺めず
小川軽舟
し残した夢のあたりをかたつむり
火箱ひろ
かたつむりよもつひらかさ目指しけり
はしもと風里
秋
露の玉笑ひこらへてゐるやうな
石田郷子
朝露の物干し竿のまつすぐな
種田果歩
露の径踏んで下界に戻りけり
波戸辺のばら
物語始まる風の芒原
宇多喜代子
芒原ハートのエースのAが落ちてゐる
辻 水音
芒野で遊び呆けて遅刻して
辻 響子
冬
新道は一直線の寒さかな
夏目漱石
隠し扉ことんとひらく寒さかな
おーたえつこ
寒し寒しミミナガヤギの眼の寒し
笹村恵美子
山茶花の夕日ほとひら剝がれけり
林 翔
山茶花や一秒戻す終末時計
鈴木みのり
山茶花の咲き満つときを痛むかな
はしもと風里